バンドマンはThe Shaggs(シャッグス)を馬鹿にしていはいけない

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The Shaggs シャッグス 洋楽

音楽を構成する三大要素はメロディ・ハーモニー・リズムの3つと言われている。この内どれか一つでも欠けてしまうと、それはもう音楽では無く、単なる周波数の塊と化してしまうのだ。

世の中には自称他称問わず、ミュージシャンと言われる人がごまんといる。この集団の中に存在するカーストは少し変わっていて、いくら演奏技術が高くても評価されない人も多ければ、たいした技術を持ち合わせていないのになぜかやたら人気が高い人たちも多い。

ただどんな人であろうが「メロディって何?」「ハーモニーって美味しいの?」「リズム? 地元の先輩の子どもの名前がそんなだったわ」なんて言う人はいない。例え頭で理解してなかろうが、遺伝子レベルで音楽の三大要素はきっとその身に刻まれているはずなのだから。

しかし、そんな常識をぶち壊したバンドがかつて存在した。それが今回紹介するThe Shaggs(シャッグス)というバンドである。

初めに言っておくとこのバンド、下手と言うのも憚られるほど演奏技術が全く無い。にも関わらず、一部界隈では非常に知名度が高い。

その理由は後述するとして、世のバンドマンに一言もの申したい。

「こんなバンドが有名になれるんなら俺らだっていくらでも可能性あるじゃん(笑)」

なんて馬鹿にしてはいけないと。

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The Shaggsのプロフィールと魅力

The Shaggsはアメリカで1968年に結成された3人組バンド。 ドロシー(ヴォーカル、ギター)、ベティ(ギター)、ヘレン(ドラム)ら3姉妹で構成されている。

当時はジャクソン5を筆頭としたファミリー・グループがシーンを席巻していた時代だった。それを見た姉妹の父・オースティンは、かつて祖母の占いで「いつか娘たちがポップスグループを組むだろう」という予言を聞いていたこともあり、ここぞとばかりの勝負、いや暴挙に出る。

彼はこれまで楽器を触ったことすら無い娘たちに向かってこう言い放った。

「バンドを組め」

厳格な父の命によりド素人のままレコーディングへ

父・オースティンは彼女らに短期間の間徹底的に楽器の練習をさせた。そして結成からごくわずかの期間で、コツコツ貯めた身銭をはたいて1stアルバム「Philosophy of the world」のレコーディングを敢行したのだ。

そのアルバムに収録されている曲がこちら。

初めてこの曲を聴いたときは脳が沸騰しそうだった。

何がすごいって、これを販売していたということがすごい。安くない金を払って延々とこんなテンションの曲を12曲聴かされるわけだ。訴訟大国と言われる向こうのことだから「気分を害された」という理由で裁判沙汰になってもなんざおかしくはない。

ギター2本とドラム、ボーカルという非常にシンプルな構成なはずなのに、これまで聴いたどんな曲よりも複雑に思えた。

上述したメロディ、ハーモニー、リズムとはなんだったのか。彼女らの曲を聴いているとまるで世の中の多くの人が「音楽」と呼ぶものの方が実は間違っているんじゃないか。そんな節さえもある。

だが、なぜこのようなアルバムが出来上がってしまったのか。その背景を知るとまた違った印象が与えられるのも事実だ。

無知ゆえに生み出せた「音楽の原体験」

彼女らは楽器の演奏をしたことが無かっただけでなく、父親の方針で普通の学校には通わず通信教育を受けていた。10代という多感な時期のほとんどを厳格な父の下で育った彼女らは、良くも悪くも純粋過ぎたのだ。

そうして生まれた曲は音楽の基礎も何も踏まえてない、ナンセンスなものとなった。しかしそれは結果として、これまでに全く無い新たなジャンルを生み出したといえる。

もし彼女らに演奏技術が備わっていたならここまで有名になることは決して無かったはずだ。それこそ星の数ほどあるバンドの一つにしかならなかったであろう。

彼女らは「音楽の原体験」を世に送り出したのだ。

どんな名プレイヤーであっても下手だった時代は必ず存在する。普通ならばある程度の技術が身に付いて初めて公衆の面前で演奏をするのが常だが、シャッグスはその階段を何段も飛ばして昇った。

この点にこそ、このバンドの価値があるように思える。彼女らが頭に思い描いていた本来の楽曲の姿と、できあがったものとの乖離性。音楽が音楽の形を成す前の過程で見られる不安定さ。こうした希少価値を彼女たちは図らずとも生み出してしまったわけだ。

もし彼女らが「普通」の演奏ができたとしたなら、どんな曲を生み出せていたのか、それはそれで非常に興味深いが。

歌詞の源は純粋さによるものか、抑圧によるものか

シャッグスは作詞作曲を自ら行っているが、ここで歌詞の一部を見てみよう。

あなたがいればとても幸せ あなたがいなくなればとても悲しい
今はほとんど毎日幸せなの あなたがそばにいるから

The Shaggs/I’m So Happy When You’re Near

私の仲良しな猫ちゃん 名前はフット 今はどこかに行っちゃった

どこに行ったのかな 何をしているのかな きっと見つかるといいな

The Shaggs/My Pal Foot Foot

不自然なほどに汚れが無い児童文学の一説のような歌詞に、なぜか僕は恐怖を感じた。

彼女らは少なからず父親に抑圧されながら過ごしていたのだろう。バンドを組み、曲も自分で作れと命じられ、できあがったのはあまりに無垢なものばかり。

父親の反感を買わないようにあえてコントロールしたのか、それとも彼女らのセンスが自然と生み出したものなのかは定かではない。でも一連の不協和音に交じるこの歌は、どこか深い闇を感じるような気がする。(※ただし、本人は父の影響は無いと言っているそう)

フランク・ザッパ、カート・コバーンが高評価をくだす

その後2ndアルバム「Shagg’s Own Thing」をリリースして間もなく、父・オースティンは死去。彼女らはバンドを即座に解散した。

その後日の目を見ることが無いと思われた彼女らがだが、偶然にも10数年を経てレコードが発掘され、 再注目されることとなる。

フランク・ザッパは「ビートルズよりも重要なバンド」とコメントし、カート・コバーンはマイ・フェイバリットアルバム50の中の5位に「Philosophy of the world」をチョイスした。

こうした評価はやはり音楽の原体験といえる彼女らの純粋な曲にくだされたものなのだ。
それは偶然が生み出したものなのかもしれないが、計算や理論を踏み倒し、本来の音楽のあるべき姿を思い出させてくれたという意味で、彼女らの功績は非常に大きい。現にパンクロックの始祖と評されることもしばしばあるそうだ。

ゆえに下手なバンドマンはシャッグスを馬鹿にできない

話は冒頭に戻る。

彼女らは一部で評価される一方、史上最悪のバンドと言われる場合がほとんどだ。でもその中にあるストーリーは業が深く、どこか悲壮めいている。

彼女らは確かに下手というのも憚られるバンドだ。でもこれほど純粋な気持ちで音楽を体現するバンドが、今の時代にどれだけ存在していることだろう。

だから僕はもの申す。

バンドマンよ、The Shaggsを馬鹿にしてはいけないと。



あとこれ、2,3回聴いてたら新鮮過ぎてドハマリするからね。マジで。もう最近のヘビロテ。

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