池井戸潤原作の映画「七つの会議」を劇場で鑑賞してきました。超豪華なキャストが織りなす、日本企業の問題をわかりやすくデフォルメしたストーリー。非常に見やすい映画で、日本のサラリーマンが抱く葛藤や不安など、心情心理を見事に描ききった良作エンタメでした。
ということで今回は映画「七つの会議」の感想と解説を。ちなみに原作小説は未読ですのであしからず!
映画「七つの会議」あらすじ
日本を代表する大企業ゼノックス。その子会社である中堅電機メーカー東京建電を舞台に、物語は幕を開ける。
利益主義を絵に描いたような企業体質の中、全く仕事をしない営業一課係長・八角(野村萬斎)、通称「はっかくさん」に周囲の人間はほとほと呆れていた。
八角は営業成績の報告会議中も、「鬼」と呼ばれる営業部長・北川(香川照之)を目の前にしながら居眠りをするほどの怠け者。
営業一課のエリート課長・坂戸(片岡愛之助)は、いくら注意しても勤務態度を改めない八角に対し、しだいに厳しく当たるようになる。
すると八角は、坂戸の行動をパワハラとして訴え出たのだ。
八角の勤務態度の悪さゆえ、ほとんどの社員がナンセンスな訴えだと思っていたが、その予想に反して坂戸は人事部に異動となり、実質的に左遷させられる。
その後、営業一課の課長を小心者の原島(及川光博)が引き継ぎ、課内の経理係・浜本(朝倉あき)とともに業務を行うが、坂戸のいた頃と比べ、業績は凋落の一途をたどる。
一方その頃、八角は自社製品に用いられていたネジの製造を、これまで委託していたベンチャー企業トーメイテックから古い町工場のねじ六へと独断で転注していた。
年間約1000万円のコストアップにも関わらず、鬼の営業部長・北川は八角の行動に口出しをしないばかりか、八角をかばう言動も取っている。
明らかに不可解な一連の件に、経理課課長代理の新田(藤森慎吾)は何か裏があると踏み、独自に調査を始める。
しかし、過去の不倫や社内での不祥事を槍玉に上げられ、東北支社への左遷を命じられてしまうのだった。
社内一のぐうたら社員八角に関わった者は、なぜか左遷させられてしまう。これを不思議に思った原島と浜本は、八角の周りで一体何が起こっているのかを突き止めようと動き始める。
しかしこのとき2人は知らなかった。八角は東京建電だけでなく、世界中を混乱に陥れてしまうかもしれない、とんでもない事件のために動いていたことを。
八角は一体何をしようとしているのか。なぜ鬼の営業部長北川は八角をかばうのか。
その先には企業の在り方と正義を問う、とてつもなく大きな秘密が隠されていた。
映画「七つの会議」ネタバレ無しの感想
非常に分かりやすいストーリーで最後まで疲れずに見られる
この映画は池井戸節全開の明快な勧善懲悪ストーリーとなっています。
物語にはいくつもの伏線が巧みに張られており、終盤に一気に回収して悪を追い詰めるという、池井戸節全開の王道の展開を繰り広げていきます。
ジェットコースターのように一気に展開していく話の中で、要所要所で劇中の登場人物に物語を整理させるのも上手なところ。登場人物が多い映画ではありますが、見ていて疲れを感じない、分かりやすい構成は素直に評価できるのではないでしょうか。
なおかつ、最後まで黒幕が誰なのかを明かし切らないのも面白さのエッセンス。明らかに怪しい人物に目を向けさせておいてのミスリードもさすがのもの。ラストには意外な真相が判明することとなります。
豪華キャスト陣が織りなす濃厚な演技が物語に厚みを加える
あらすじで紹介したキャスト以外にも、北大路欣也や世良公則、鹿賀丈史といった大御所俳優、小泉孝太郎、土屋太鳳、吉田羊など人気俳優、さらには春風亭昇太や立川談春といった噺家まで出演。
しかも女性陣以外はほぼ全員顔芸ありという濃厚さ。
監督は「半沢直樹」や「下町ロケット」など、池井戸作品でメガホンを取った福澤克雄。今作でも豪華キャスト陣の顔芸を巧みに使いながら「魅せる」構成もさすがのものです。
ちょい役で出てくる方たちもやたら豪華で、「こんなところでこの人が!?」と驚かされる場面もあります。
サラリーマンの葛藤に対する池井戸流回答とは
本作は八角がぐうたら社員になった理由や東京建電の企業体質を通じ、「我々はなんのために仕事をするのか」、ひいては「日本企業の抱える問題」を問いかける作品となっています。
顧客の幸せのために仕事をするか、会社の利益のために仕事をするか。
劇中で八角たちが取る行動を見て、どんなことを感じるかは正直人それぞれかと思います。ただ、一度でも営業を経験したことのある人なら、きっと心の琴線に触れるものがあるのではないでしょうか。
僕自身も営業職の経験があるのですが、当時売っていた商品は顧客の需要もそこそこあり、なおかつ業界内ではまあまあ強いポジションにあった商品でした(●ット●ッパーのようなネット予約系の商材)。
個人事業主を中心に営業に回り、「この商品は絶対に役に立つ」と思いながら売っていたのですが、モノに溢れた今、店を続けるのはそう簡単では無く、閉業するお店をいくつも目の当たりにしてきました。
いつしか僕は「結局商品が売れても得をするのは会社だけじゃん」という思いが芽生え、営業に取り組まないようになって。最終的に異動になったということがあります。
本作ではこのテーマについて、全編を通じて僕たちに語りかけています。そしてラストシーンでは仕事と会社への向き合い方について、一つの答えを示してくれるのです。その答えには賛否両論ありますが、くれぐれも「エンドロール」に席を立つことないよう、ご覧ください。
映画「七つの会議」ネタバレ有りの感想
以下、ネタバレありのためご注意ください!
劇中の敵は巨悪の末端に過ぎないというやるせなさ
「七つの会議」は非常に分かりやすく勧善懲悪が描かれたストーリーとなっています。
悪者がいて、それを成敗する正義がある。その正義こそが野村萬斎演じる八角で、悪とはゼノックス、東京建電の企業体質でした。
ただ、今作における本当の巨悪はもっとスケールが大きく、「日本企業の体質そのもの」であることは間違いありません。
その意味で本作は単純な勧善懲悪でハッピーエンドを迎えていないのです。東京建電の1件は氷山の一角。現実にも同じ様なことは間違いなく起こっており、現代の企業の在り方に対し問題を提起するスケールの大きな作品となっています。
(そのため劇中の登場人物のバックグラウンドにはあまりフォーカスされていない点が本作の残念なところなのですが、これはまた別の話)
企業である以上、どこまでいっても最終的には数字至上主義にならざるを得ないのもやるせなさを感じさせます。「今期は赤字でいいや」なんて考える経営者は一人もいるはずがないのです。
劇中で描かれたような不正や悪事の隠蔽は、僕たちの知らないところで世の中にも多数存在しているはず。2018年は日産のカルロス・ゴーン氏の事件も衝撃を呼びましたよね。
「我々は自分や他人の幸せのために働くのか、それとも企業の利益のために働くのか」
サラリーマンにとっては永遠のテーマともいえるこの疑問。本作が投じた一石は、皆さんの心にどんな波紋を生み出したでしょうか。
結局「七つの会議」ってどの会議のこと?
タイトルにもなっている「七つの会議」ですが、劇中で七回会議が行われていたかどうかは僕も記憶が若干曖昧なのです。
終盤の役員会議と御前会議はテロップ入りで印象も強かったのですが、後はどんな会議があったでしょうか。
2.坂戸のパワハラについて審議する「パワハラ委員会の会議」
3.ドーナツ無人販売の可否を決定する「職場環境改善会議」
4.原島が一課課長になった後の「営業成績報告会議」
5.新田が一課のネジ転注に疑念を抱く原因の「計数会議」
→原作にはこの会議があるそうです。劇中ではカットされてた?
6.経理が営業一課の不正を報告する「役員会議」
7.終盤の「御前会議」
原作では各登場人物の視点で物語が群像劇的に描かれていて、映画ではほぼカットされていたカスタマー室の佐野が関わる「編集会議」などもあるそう。
もっと細かいことを言えば、トーメイテックと東京建電の両社長がネジの不正を企てる場面や、ラストの弁護士による事実調査委員会も会議に含んでいいかもしれないですよね。
ただ、会議はあくまでも物語に展開を与えるものに徹して描かれており、本作のテーマに関わるものにはなっていません。では、「七つの会議」というタイトルには何が込められているのでしょうか。
「七つの会議」と七つの大罪について
劇中には人間の「欲」が様々な形で現れているのですが、よくよく整理してみると七つの大罪と関連付けられるのはないかと思います。
七つの大罪とは、カトリック教会において「死に至る罪」、「人を罪に導く欲求や感情」とされているもの。傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、暴食、色欲、怠惰の7つの欲求・感情がこれに当たります。
鈴木央の漫画「七つの大罪」やデヴィッド・フィンチャーの映画「SEVEN」など、七つの大罪にインスパイアされた作品は数多くありますよね。
では、「七つの会議」ではどうか。こう思ったのが、この記事を書きながらドーナッツのエピソードを振り返ったのがきっかけでした。
観劇時にはこの場面だけ物語の中から少し浮いたように思えたのですが、展開に緩急を付けたり、最終的にはトーメイテックと東京建電のつながりを暴くものになったりと地味に重要な役割を果たしています。
で、劇中には経理課長代理の新田がドーナッツを無銭飲食する場面があるのですが、これって実は企業で起きる不正や隠蔽の最小単位を表すメタファーとして用いられてるんじゃないかと思うんです。
そこから「食を取り巻く欲求」→暴食→七つの大罪と結びつくに至ったのですが、七つの大罪にあたる罪を登場人物と結びつけてみましょう。
・強欲…利益至上主義の梨田や北川など
・嫉妬…優秀な兄に嫉妬を感じていた坂戸、本社から東京建電に出向した村西副社長
・憤怒…ほとんどの登場人物が持つ感情
・暴食…新田のドーナッツに関するエピソード全般(↑で書いた通り)
・色欲…新田と不倫関係にあった浜本
・怠惰…居眠り八角その人
主要な登場人物は一通りこのように当てはめることができます。本来の七つの大罪の意味に違わず、この感情により身を滅ぼしたり悪い方向に向かっている人が多いのも印象的ですね。
また、七つの大罪が滅ぼすのは人だけでなく、同じ様に企業も滅ぼしてしまうのではないかと思います。
残念だった点について
あえて残念だった点を語るとするなら、キャストのネームバリューに頼っている部分が大きく、劇中のキャラクター自体があまり深掘りされなかった点でしょうか。
原作は章ごとに主役となる人物が入れ替わる群像劇として描かれているそうで、登場人物のバックグラウンドにもより多く触れているみたいです。
不正や隠蔽は本来モラルとしてよろしくないものです。なぜそのような悪事に手を出してしまったのかを深掘りしていれば、もっとキャラが魅力的に見えたのではないでしょうか。
今作はそのあたりのエピソードを挿入せず、豪華なキャストと濃厚な演技で押し切っていたように思います。ボリュームのある小説を映画として再編成する以上、ある程度のカットはいたしかたないのですが…。
まとめ:さくっと見るにはちょうど良い作品です
以上、「七つの会議」のレビューでした。
本作は2時間という上映時間を感じさせないほどにスピーディでテンポよく物語が進行し、さくっと見るにはちょうどいいエンターテイメント作品といえます。
社会における仕事の役割、そして企業の在り方という大きなテーマを題材にしていますが、筋道の分かりやすい物語で最後まで話を見失わずに鑑賞できるのも魅力でしょう。
大ヒット作品になったのも頷ける本作、未鑑賞の人はぜひ劇場へ足を運んでみては。
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[…] (椅子が壊れた直後の会議室 引用:https://otomonokoto.com) […]